<相続⑨>相続税の例を見てみましょう
前回、「相続税計算の仕組み」についてお話ししました。
ご理解いただけましたでしょうか?
今日はモデル例を一つご覧いただき、大まかなボリューム感と、以降の注意ポイントを考えてみたいと思います。
モデル例はこんな例です。
家族構成:夫60歳(会社員)・妻58歳(専業主婦)・長男32歳(会社員・別居)・長女30歳(会社員・別居)
所有財産:自宅=固定資産税評価4,000万円
農地=固定資産税評価250万円
預金=1,000万円、株式=800万円、国債=300万円
家財=100万円、車=100万円、ゴルフ会員権=80万円
生命保険金=3,000万円、死亡退職金=3,000万円
病院未払=100万円、通夜葬儀費用=200万円
生前贈与=なし
…こんなご家族で、ご主人が急逝されました。
不動産については固定資産税評価額を基本に試算し、法定相続人数は「3人」としています。
いかがでしょうか?
サラリーマンとして永年勤め、マイホームを持ち、株・債券等も少しづつ頑張って作り上げた、…という感じのご家族ですね。
これで遺産総額は約1億円、その約半分が基礎控除となり、課税遺産総額は約5千万円となりました。
このまま税額を計算すると884万円ということですので、預金・保険金・死亡退職金というキャッシュから充分に払えるということがわかります。
さらに、ここでは「配偶者の税額軽減」はまだ計算に盛り込んでいませんね。
仮に、この相続を「配偶者」に手厚くすればするほど、結果的には相続税はゼロに近づいていくことになります。
感じていただきたいのは、“このケースで納税資金の心配は必要ない”ということです。
実際にこのようなご家族は多いでしょうし、子供達も別途住まいを持っていると考えると、ほとんどを配偶者が相続することで、税の心配も・分割の心配もそれほどは必要ないでしょう。
でも、考えておかなければならないは「次に奥さんが亡くなったとき」です。
所有の財産はそのままで、奥さんには保険金も退職金もなかったとするとどうでしょう。
ご主人が亡くなった際の保険金・退職金は、今度は非課税部分なく“預金”になりますから、遺産総額は“約1億円”ではなく“約1.3億円”となり、基礎控除は4,200万円=3,000+(600×2)に減りますね。
今度は「配偶者の税額軽減」はありませんから、2人の子供で約2千万円の相続税を準備しなければなりません。
また、配偶者にとっては自身も住み続けた自宅でしたが、2人の子供にとってはどうでしょう。ともに遠方に生活の場を構えており、親が済んでいた家で生活することがないとしたら、「どっちが相続する」のか、「売却」するのか、手間も含めてもめる要素になりそうじゃないですか?
さらに、このモデル例はサラリーマン家族でしたが、これが中小企業経営者であって、自社株の評価が数億円になるような場合(中小企業でもそれくらいの評価にはすぐなりますよ)には、「税」の問題も大きく、換金できない自社株を誰が相続するかという「分割」についても大きな問題が残されることになります。
では、次回は実際に企業経営者の相続で、大変な「争族」になってしまった事例ご紹介しますね。