<相続⑩>「争族」になってしまった事例に学ぶ!
今日は、相続が「争族」になってしまった、現実の事例をご紹介しましょう。
争族になってしまった理由、その後の家族関係、どうすれば回避できたか…、こんなことを考えながら読んでいってください。
まず、事例の家族構成はこうです。
亡くなられたAさんは、札幌市で家具店創業から約20年の中小企業経営者でした。
家族(=法定相続人)は、図のとおり妻と4人の子供達。Aさんが築き上げた会社は、長男(C)が後継者となるべく取締役に就任しており、他のDEFさんは会社経営にはノータッチでした。
残された財産は、自宅不動産と自社株。
遺言もなかったので、遺産分割協議書を作成して、「不動産は母(B)が全て、自社株は後継者であるCさんが全て相続し、DEFさんは現金を各1,000万円づつ」相続しました。
このときの不動産の評価額は公表されてませんので解りませんが、自社株は当時の評価で約5,000万円です。
4人の兄弟で、長男が4倍の財産をと考えると不公平に思われるかもしれませんが、非上場で換金もできない株式であり、一人だけの後継者ですから、充分“妥当”と言えるバランスだったと思います。
これで、相続・事業承継ともに無事完了したのですが、大変な「争族」になってしまったのは、それから17年も経過した2007年のことです。
ここになって、BDEFさんが「遺産分割協議書は無効であり、自分たちは自社株の相続権を持っている」として裁判をおこしたのです。
遺産分割協議書の実印をBさんが預かっていたために、自分の意志で押印したものではないというのが理由なのですが、“なんで17年も過ぎてから?…”というのが率直な疑問ですよね。
この会社、AさんからCさんへの相続当時の自社株評価は前述のとおり約5,000万円でしたが、Cさんの経営努力により、17年後の評価では400倍もの“約200億円”になっていたわけです。
DEFさんは経営に参加していたわけではないので、これはCさんの功績に他ならないのですが、母親であるBさんとしては「他の子供達DEFにも分けてやってほしい…」と思われたのでしょう。
結局、裁判は「遺産分割協議書は有効」としてCさんの勝訴、でもさらに「判決不服とし控訴」にまで至り、最終的には「和解」しましたが、おそらくCさんがそれなりの和解金を支払ったのでしょうね。
「1,000万円と5,000万円なら承知するが、1,000万円と200億円となったら黙っていられない…」というところでしょうが、5人の肉親が裁判で争うという姿は実に悲しいものです。
では、この「争族」、回避する術はなかったのでしょうか?
簡単かつ最善の策は、Aが遺言で「自社株は後継者であるCに」と残しておけばよかったのです。
そうすれば遺産分割協議も必用なくなり、遺産分割協議書の有効無効を争うなんてことにもならなかったわけです。
皆さんもよくご存知の「ニトリ」の事例ですが、ここまでの規模ではないにしても、自社株評価が“数億円~数十億円”になる中小企業は、決してレアケースではありません。
心血を注いだ会社を、自分が死んだ後も後継者が育ててくれて、家族が争うことなく円満であり続ける…、経営者としては、ここまで準備しておくことが責務であるということですね。
では、次回は「遺言」についてお話ししていきましょう。