【事業承継③】「お金の問題」って?
円滑な事業承継を目指した時、クリアしなければならない“2つの壁”が「後継者の壁」と「お金の壁」とお話ししました。
では、幸い「後継者の壁」はクリアできたとします。お子さん等、親族の中から…、意欲を持った従業員の中から…、いずれにしても、積極的な意思を持った後継者ができたわけです。これはまず喜ぶべきことですね。
では、その人に経営をバトンタッチするというのはどうゆうことでしょうか。
印刷屋さんに新しい社長の名刺を作ってもらうこと?
取引先に「今日から彼が社長ですから…」と言って回る事?
法人登記において「代表取締役」として登記すること?
…どれも大事なことではありますが、これでは事業承継が完了したことにはなりません。
これだけでは「経営の承継」はできても、「資産の承継」ができていません。
この状態で完了したつもりでいたら、その後に現社長が死亡したときにどうなるでしょうか。
代表権はなくても、会社の自社株のほぼ全てを持ったままで死亡したとすると、それは全て相続財産となります。
以前、鳥取の企業さんの事例では、資本金1,000万円の自社株が、評価3億円にもなっていました。その時点での社長さんは既に経営から退かれており、ご自宅での療養中でした。会社の経営は後継者である息子さんがなされていたのですが、自社株の85%は現社長が持たれていたままでしたので、このままお父さんが亡くなられた際には「約25,000万円」の相続財産が、相続税の対象となることをお話ししました。
専務さんからは「そんな評価になるはずがない、3倍の3,000万円なら納得できるが、3億円にもなるはずがない。」と言われ、そこから先は話もできませんでした。
ところがその2日後、専務さんから電話が入り、「税理士に計算させたら、あなたに言われたとおりだった。このままでは相続税を払うために会社が潰れてしまう。どうしよう?」ということでした。
長い歴史とともに堅実な経営を重ねてこられた会社であれば、“数億円”の評価になっている会社は珍しくはありません。
皆さんの担当されている企業さんにも、「これだけの評価になっていながら、何の問題意識ももっていらっしゃらない…」という先は多くあるはずです。
では、どうすればいいのか…。
答えは、「計画的かつ円滑に自社株を後継者に譲り、資産の承継を完了させる」ことです。
…というと簡単な一言になってしまうのですが、現実にはこれが大変なんです。
前述の例ならば、「約25,000万円の自社株を譲る」ということですから、一大事業ですよね。
この“譲る”という行為、実際には①「あげる」のか、②「売る」のかの方法は二つです。
①の場合には、“もらった”側には贈与税の心配が生じますし、現社長の手元には何も残らなくなってしまいます。
逆に、②の場合では、現社長の手元にはしっかりとお金が入りますが、“買う”側にはその分の資金が必要です。
この「お金の問題」をクリアするためには1年~2年の話ではなく、10年程度の期間をかけていくことが肝心です。
このために、「事業承継には長い期間が必要」だとも言えるでしょう。
息子さん・娘さんなどが後継者である場合には①、従業員さんなど他人さんが後継者である場合には②となるのが基本でしょうね。
では、この①「あげる」・②「売る」に分けて、それぞれの注意点や、上手な方法を考えていきましょう。