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保険営業に役立つ小ネタ集

【事業承継④】自社株を「あげる」場合…

前回、会社(=自社株)を「あげる」のか「売る」のか…というお話しをしました。

では、今日は「あげる」の場合に、税金等がどうなっていくのかをお話ししますね。

まず、「あげる」わけですから、現在の所有者(=現社長)の手元には何も入ってこないということはご理解くださいね。

永年かけて育て上げてきた会社、当初の出資額(資本金)の何十倍にもなっているケースは決して少なくはありません。

そんな大切な財産を「あげる」わけですから、まずこれは息子さん・娘さん等の親族が後継者になる場合ですね。

 

「あげる」側には、何の税務も発生しませんが、大変なのは「もらう」側です。

贈与税というのがなかなか高い税率だというのは、なんとなく皆さんもご存知だと思いますが、仮に自社株の評価が1億円だとして、これを贈与するとどれだけの贈与税になるでしょう…。

細かい計算は割愛しますが、国から求められる贈与税額は“約4,800万円”です。

1億円に対して約半分ですよ!

さらに考えてください、この税金、納めるための現金って、どこから持ってきます?

もらった株式は売り買いできるものではなく、言うなれば“単なる紙切れ”のようなものですね。そしてお父さんもお元気な状態での贈与ですから、生命保険金が入ってくるわけでもありません。

息子さん(娘さん)としては、不安いっぱいで社長業をスタートさせるときに、数千万円もの納税資金を準備しなければならないわけです。

 

現実には、“いきなり全額を生前に贈与”するケースはあまりないでしょう。

親御さんとしても、贈与税ができるだけかからない状態で譲っていくことを考えます。

その際に多く使われるのが「暦年贈与」です。

贈与税では、「年間110万円」の基礎控除がありますから、“毎年110万円分”の自社株を贈与していけば、その年の贈与税は発生しません。

これを数年間続けていけば、10年で1,100万円、20年で2,200万円、30年で3,300万円という単純な計算ができます。

前述の会社のように1億円の総額ならば91年…、いつになったら事業承継は完了するんでしょうね。

でも、こうして地道に暦年贈与されている社長さんは多いのですが、私はこんな提案をします。

「社長、毎年110万円分では、あまりにも年数がかかりすぎますね。年に310万円にされたらどうですか?、この場合は基礎控除110万円を引いて、課税対象は200万円。これだと税率は10%ですから相続税と比較しても最も低い税率です。税額20万円ということは、実際に贈与された310万円に対しては6.45%ですよ。

これを続けていけば、3年で930万円、10年で3,100万円分の贈与ができますよ。」

…と。

基礎控除以内で…」と考えられている方は多いですが、「310万円以内で…」という利点をご存知の方は少ないですから、ぜひ皆さんから教えてあげてください。

そして、この方法にはもう一つのメリットがあります。

基礎控除以内で贈与する場合、税金が発生しませんから「贈与税の申告」もしませんね。あたりまえと思われるでしょうが、これを数年重ねた段階で、突然税務署から“遡っての否認”をされてしまったらどうします?

そこを毎年310万円にして、当然申告・納税をきちんとしておけば、遡っての否認なんて心配はいらなくなります。

この“安心感”というのも大きなメリットです。

 

では、事業承継期間を10年で計画していくとしますね。この間、毎年300万円分を暦年贈与していけば、累計で3,000万円分の贈与ができます。

でも、仮に評価が1億円だとすると、まだ7,000万円分が残ってますね。

これをどうしましょうか…。

 

「確か、相続時精算課税って制度を使えば2,500万円までは贈与税かからないって聞いたことあるけど…」って思いました?

確かに、相続時精算課税制度というのは、早いうちに・多額の財産を無税で贈与できるというメリットはありますが、これには以下の注意が必要です。

①贈与時には課税されないけど、将来相続が発生したときには相続財産として加算されるので、安易に無税で贈与できると考えてはダメ。

②相続時精算課税制度を使うと、その後の暦年贈与に「110万円の基礎控除」が使えなくなってしまい、“やりなおし”はできません。

 

私は個人的には相続時精算課税制度はお勧めしていません。

やはり暦年贈与の道は残しておいたほうが良いと思うのでね。

…そうすると、この事例ではどうしましょうか。

10年間の暦年贈与を続けながら、部分的かつ計画的に後継者が「買う」という道との組み合わせというのも考えられますね。

後継者としても「自己資金を投入している…」という自覚を持って経営にあたってもらうためにも、“全部あげる”のではないというのも一考かと思います。

 

そしてもう一つ、ここで使えるのが「事業承継税制」です。

ここまでお話ししてきた“事業承継が進まない問題”というのは国も課題視していますので、「税制面で優遇してあげることで、事業承継を後押ししよう…」という趣旨で作られた税制です。

更に、今では「特例」部分も加わっていますので、正しく理解して活用していくことも上手な経営です。

では、次回はここをお話ししていきますね。