<相続⑲>「家族信託」「成年後見」って何?
相続対策を考えていくと、「成年後見」という制度が耳にはいってきます。
そしてさらに、最近では「家族信託」という言葉も加わってきました。
この二つ、ともに“本人が存命のうちに何がしかの手をうっていく”という点では共通している部分もありますが、仕組みや制約においては大きく違います。
今日は、相続シリーズの応用編的な位置づけで、この二つをご紹介しておきます。
今、私たちが直面する問題に「認知症」がありますね。
・自分が認知症になってしまい、“判断”ができなくなってしまったら、その後はどうなってしまうんだろう…
・妻は認知症だ。私が死んでしまったら、法的に財産は妻の物になるが、その後の管理はどうなるんだろう…
…自分が(家族が)認知症になるというのは“法的な判断”ができなくなるということですから心配はつきないですね。
そこで、以前からそのために設けられている制度が「成年後見」という制度です。
成年後見には「法定後見」と「任意後見」があり、「法定後見」は裁判所が法定後見人を定め、「任意後見」は自身が元気なうちに任意後見人を定めておく、…一言でいうとこんな制度です。
特に後者の「任意後見」は今日のテーマにそうものであり、利用する価値は充分考えられます。
そこに加わってきたのが「家族信託」です。
文字そのものを見ると、“誰か家族を信じて、財産を託す”という感じがしますね。
そのとおりです。
家族や、信頼のおける人と信託契約を結んで、「この財産の管理を任せます」というものです。
信託契約には、「委託者」「受託者」「受益者」という三者が登場しますが、一般的には「委託者=受益者」となり、“私のためにお願いね”という構図になります。
ともに、“今の自分の思いを、認知症となってしまった後も実現できるように…”という目的は同じです。
ここでは、「家族信託」のメリットと注意点(デメリットという意味ではなく)という視点から見ていくことで、双方の違いをイメージしていただきたいと思います。
★「家族信託」のメリット
①本人の判断能力に影響されることなく財産の管理ができる
認知症等で本人の判断能力が低下してしまうと、本来予定していた財産の売買等ができなくなってしまう可能性がありますが、家族信託を使うことで本人の意思確認なくても財産管理を行うことができます。
家族信託のメリットの中で最も重要な点ですね。
反面、任意後見では“本人のメリットになることしかできない”という制約がありますので、相続税対策や資産の組み換えのように“本人のためになるとは言い切れない”ことはできません。
②「遺言」としての機能がある
家族信託契約書の中に、自身が亡くなった後に財産を引き継ぐ人を指定したり、自身の後の受益者を指定していくことがてきますので、事実上の「遺言」として使えますね。
特に、前述のように“妻が認知症であり、自分がいなくなった後の財産管理が心配”というような人には価値あります。
さらに、通常の遺言では自身が死んだときのことしか言い残せませんが、家族信託では二次相続以降等も考えて、受益者を指定しておくことができます。
③「費用」がかからない
成年後見制度では、初期費用として数十万円、以後もランニングコストとして毎月数万円が必要になりますが、家族信託の場合はランニングコストはかからず、弁護士相談等の初期費用だけと考えておいてよいでしょう。
★「家族信託」の注意点
①“節税”を目的とするものではない
あたかも節税効果があるようなセミナー等がありますが、基本的には家族信託には節税効果はありません。
“目的は何なのか”を見失わないでください。
②“専門家選び”が重要
家族信託という制度自体が最近のものですから、まだまだ経験の深い専門家は少ないと言えるでしょう。
また、長い期間にわたる信託契約ですから、安易な考えだけで結ぶのは危険です。
弁護士・司法書士・行政書士等で信頼できる方に相談することから始めるべきです。
③家族内のトラブルに注意
まだ認知度の低い制度ですから、家族の中でも「何なのそれ?」となるケースは多いでしょう。
ましてや、信託契約とともに不動産の名義も受託者に変更するとなると、「私はのけ者に…」と感じられてしまう場合もあると思います。
制度に対する理解を深めて、特に“受託者ではない家族”への配慮が必要だと思います。
…「家族信託」・「任意後見」ともに、自身が元気なうちに手をうつという手段であり、目的は「自分の意思を明確にして、争族にならないようにする」ためです。
ここで書きましたメリットや注意点だけではまだまだ足りませんが、まずは“こんな制度がある”ということを認識しておいて、お客様から「自分が認知症になった後のことが心配なんだ…」というような声があったときには、「こんな方法もあるみたいですよ」と紹介してあげてください。